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幸福の報告書
度にもなるというアラスカでの美しく厳しい自然と、どのページを開いても自然に圧倒されながらもそこでの暮らしを楽しんでいる風景、「結婚したら水道のある暮らしをしたいね」と言いながら日々を送る生活が、豊かに表され感動を覚えました。しかしその文章を私には映像として変換する事は出来ませんでした。そこで写真集を探し、表現されている生活の場面や想像を絶する深いクレバス、神秘の原野、自然に立ち向かう生き物を目にし、星野道夫という人をほんの少し理解できたように思います。彼の言葉の中に「日々生きているということは、あたりまえのことではなくて、実は奇跡的なことのような気がします・・・」この言葉を時々、T君たちと話題にしています。
 妻が、「今日、玲さんという方が我が家に来ますよ、お風呂に入りにね」と、言います。私にとって初めてお会いする人でした。彼女がこられたとき、私と洋子はテレビの画面を使って流行のウィィでテニス、ゴルフなどに興じていたようで「家族でウィィ」とはと、時々、彼女に面白い家庭だなといわれます。彼女3年ほど前に妻の兄から水を薦められその水に触れたときこの水は優しくて温かいと感じたそうです。そしてこの日マリヤがお風呂に入ってみたらと誘い、来られたということでした。彼女は大学を卒業した後、空間デザインの仕事に就きます。某大手テレビ局でセットをデザインしていたのもその一つでした。我々も知っているゴールデンタイムの番組も担当していました。スマップのデビュー前のラジオ公開番組のセットもデザインされ「みんな、可愛かったね」と懐かしそうに話します。ここからが彼女の凄いところなのです。自分がデザインしたそのイメージを、ディレクターをとうし、大道具さんに渡すとそのとおりのものが作られテレビに映され司会者が・・・というとても楽しい充実した仕事と思うのですが彼女は辞めてしまいます。理由はただ1つそのセットは番組終了とともに、全て粉々にされ廃棄処分となる、その姿が見ていられなかったからといいます。デザインではなく木材等の使い捨てについてでした。子どものときからポリシーとして再生をいつも念頭において生きてきた彼女にとって耐えられない状況でした、日本古来の釘を使わない建築技法を学び、流木や古材を上手に使い新しい空間にしてしまう、そういうものを目指していた人間にとっては当然の事かもしれません。退社した後、何を思ったのか北海道へ一人旅に出ます、車に寝袋と少々の食べ物を積みカーフェリーに乗り込みます、上陸し多くの人々の思いやり、親切な心に包まれた夢のような日々に驚いていました。さらに凄いことが待っていました。夕暮れ砂浜を歩いていると一人の男の人が海に向かってギターを弾いています、波の音をさえぎるように耳を澄まし近づくとその曲は以前から聴いていたマニアだけに知られている大好きなメロディでした。いったい何がセットしたのかこの偶然を、その後二人は東京に戻り、大きな夢を追いながら神田川の歌詞のような生活を始めることとなります。今でも、
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