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幸福の報告書

いることも、たまに見かけます)いるともう昼食です。
 まず犬達の食事を計ります。さくら達の昼の散歩はオシッコをさせるだけなのですがコーギーは成長すると中型犬で体重も10キロ前後あり、小さい頃、わずかな期間、祖母もリードを引いて散歩ができたのですがあっという間に大きくななってしまい、犬との散歩という楽しみはなくなりました。私は昼の時報を聞くとすぐに、給食弁当を手に自宅に戻り、すぐに、さくら達のオシッコに行きます。短いと2分ぐらい長くて10分です。食卓テーブルには3人分の箸がそれぞれの決まったところに、箸置きと共に並べられています、彼女にはこだわりがあり、自分が使うものは吊り篭に流し添え、という77歳のときに池坊の先生よりお祝いとして膳など一式、頂いたものの一つで白磁の素材で六角形の外枠に金色を施し、右側の両面にさらに半分ほど隠れるように重なっています、両側の尖ったところは上にゆるく反っています、うっすらと青い籠、銀色の吊り金具、そこに鮮やかな黄緑で小さな葉をあしらい薄く茶色の茎が見てとれます、更に薄く、ピンクと白を混ぜた色の萩の花がつり金具に向かって曲線を描いています。もう一輪隠れている吊り篭から少し大きな同じ色の葉とピンクの花が低く、やや上方に向かって咲いています。私たちに用意してくれるものはその都度、違うのですが祖母自身が作った、淡い土色にホワイトチョコレートを流したような、おしゃれな30年前の物もあります。私自身、マリヤも箸はテーブル直で良いと思っているのですが彼女は必ずセットします。あるところではとてもこだわります。彼女の昼食はたいがい残り物です。犬達みんなの食事が済むと、ようやく20年来の生きがいである型染めの仕事に取り掛かります。
 
彼女の部屋は玄関を入り、奥にある下駄箱を支えに「よいっしょ」(そう祖母の声はきこえます)と上がるとすぐ右側にあります、入り口に突っ張り棒を使い、自慢の暖簾が下がっています、大人の手のひら大の葡萄が蔓、葉と共に描かれています、左り上、目の高さぐらいのとこにひと房、対角右下肘の辺りにもうひと房、作品は綺麗なのですが季節を無視して架けられています。ドアを開けるとまず染料の匂いが漂い、環境ホルモンの危険を訴えている私としては、とても心配なのですが、特に換気に気をつけるよう注意しています。ドアの裏側には寒い時期、足を暖めるパットが隠れています、いっぱいに開けたドアに並んでガラス戸の中に古布や、洋裁用の生地があふれている白い棚、その下は胸の高さまで引き戸になっていて何が隠されているのかわかりません。次にもう一つ白い整理箪笥、その上にテレビがあり、更にその隣に茶色の箪笥、そこには戦前、戦中、戦後四男一女をもうけ、五十数年という月日を共に暮らしたつれあいの遺影が佇んでいます。
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年前の話を昨晩、聞きました、最近出合った玲さん(彼女については後程お話いたします)という方が我が家にやってきまして一緒に食事をし

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